映画が語ること
ミディ=クロリアンが初めて登場するのは『ファントム・メナス』。それは何なのかと幼いアナキンに尋ねられ、クワイ=ガン・ジンはこう答える。
ミディ=クロリアンは、すべての生きた細胞の中にすむ微小な生命体だ…ミディ=クロリアンがいなければ生命は存在できず、我々がフォースを知ることもない。彼らは絶えず我々に語りかけ、フォースの意志を伝えている。
つまり、ミディ=クロリアンはフォースそのものではなく、フォースにつながる回線なのだ。細胞の中に多くいるほど、フォースの声がよく聞こえる。高い数値が示すのは才能であって、熟練ではない。どんな修行を積んだかも、どちらの側を選ぶかも、数値は何も教えてくれない。
数値は血液で測る。そしてアナキンの検査が、サーガでいちばん有名な数字をはじき出す。
測定値が振り切れています…2万以上です。マスター・ヨーダでさえ、ここまで高いミディ=クロリアン値ではありません。
「そんなジェダイはいない」とクワイ=ガンは答える。それ以来、ミディ=クロリアンが画面で話題に上ったのは数えるほどしかない。そのすべてを紹介しよう。[1]
映像作品での言及まとめ
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1999
エピソード1/ファントム・メナス
クワイ=ガンがミディ=クロリアンとは何かを説明し、アナキンの血液検査は「2万以上」という結果に。さらにクワイ=ガンは、少年がミディ=クロリアンによって宿されたのではないかとほのめかす。
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2014 · シーズン6
クローン・ウォーズ
クワイ=ガンの声が、ミディ=クロリアンを通してリビング・フォースとコズミック・フォースについてヨーダに教える。そしてヨーダは、ミディ=クロリアンの故郷である惑星「生命の泉」へと旅立つ。
ミディ=クロリアンの解剖図
ミディ=クロリアンを間近で映した映画は一本もない。そこで、モデルになった細胞小器官であるミトコンドリアをもとに、その姿を復元してみた。1〜4は実在するミトコンドリアの構造で、5と6は、ミディ=クロリアンならさらに必要になりそうなものを私たちが推測したものだ。
- 外膜:共生体と宿主細胞を隔てる境界。
- ひだ状に折りたたまれた内膜。ミトコンドリアでは、このひだ(クリステ)で細胞のエネルギーがつくられる。
- 環状の独自DNA。ミトコンドリアが独立した細菌として生きていた時代の名残だ。
- リボソーム。細菌タイプの小さなタンパク質工場。
- 「フォース・アンテナ」:ミディ=クロリアンがフォースを感じ取るための何か。生物学には、こんな仕組みで働くものは存在しない。
- 宿主への信号:彼らが「語りかける」手段。現実の細胞や微生物も、分子を使って本当に会話している。
現実の設計図:ミトコンドリア
ジョージ・ルーカスは、ミディ=クロリアンを「ミトコンドリアを大まかに描いたもの」だと説明している。彼に言わせれば、それがなければ生命は存在しえない、小さなパートナーだ。[2]名前は一般に、ミトコンドリア(mitochondrion)と葉緑体(chloroplast)を組み合わせた造語だと解釈されている。どちらも生きた細胞の中にある器官で、もとは独立して暮らす細菌だった。[3]
この部分は正真正銘の科学だ。およそ20億年前、ある細胞が細菌を飲み込み、消化せずにそのまま住まわせた。居候は住まいと食べ物を、宿主は発電所を手に入れたわけだ。その子孫が、私たちの体のほぼすべての細胞にあるミトコンドリアである。ミトコンドリアは今も独自のDNA(1万6569文字、遺伝子37個)を持ち、自力で増殖する。この考えを1967年に世に広めたのが、リン・マーギュリスだ。[4][5]
クワイ=ガンによる共生体の定義「互いの利益のために共に生きる生命体」でさえ、生物学者が相利共生を説明する言葉そのままだ。
どれだけいるのか?
作中に出てくる数字はただひとつ、アナキンの「2万以上」だけで、しかも単位がない。細胞1個あたりなのか、血液1滴あたりなのかもわからない。ジョージ・ルーカスは、ノベライズを手がけたテリー・ブルックスにこの設定を説明した際、もっと具体的に語っている。普通の生き物は細胞1個にミディ=クロリアンを1個か2個、あるいは3個持っているが、アナキンは「1000個くらい」持っているというのだ。[6]
ファンのウィキに載っている細かな数値(ヨーダは1万7700など)は、映画にもドラマにも出てこない。実際に存在する数字を、本物のミトコンドリアと並べてみよう。
- スター・ウォーズ
- 現実の生物学
対数目盛:目盛り線を1本進むごとに10倍になる。
そもそも2万個も入るのか?
肝細胞には1000〜2000個のミトコンドリアがあり、合わせて細胞の約22%を占める。[7][9]間をとって1500個とすると、ミトコンドリア1個は細胞のおよそ7000分の1になる。ミトコンドリアと同じ大きさのミディ=クロリアンが2万個となると、ほかのものを全部追い出したとしても、細胞3個分近いスペースが必要だ。ルーカスの言う1細胞あたり1000個なら、15%ほどで控えめに収まる。
つまり、映画の数字が細胞1個あたりではないか、ミディ=クロリアンがミトコンドリアよりずっと小さいかのどちらかだ。自分で試してみよう。
293% 細胞の体積に占める割合収まらない:細胞が破裂する
図は細胞を薄く切った断面。断面に占める面積の割合は体積の割合に等しいので、比率は正確だ。
血液検査
タトゥイーンで、クワイ=ガンはアナキンの血液を1滴採り、測定値を女王の船にいるオビ=ワンに送る。現実の研究室でも、これとよく似たことが行われている。細胞が持つミトコンドリアDNAのコピー数(mtDNAコピー数)を定量PCRで測り、老化や病気の研究で指標として使っているのだ。[10]
ただし、落とし穴がひとつある。血液1滴に含まれる細胞の大半を占める成熟した赤血球には、ミトコンドリアがまったくない。そのため研究室では、代わりに白血球を調べる。[10]ミディ=クロリアンがミトコンドリアと同じように振る舞うなら、ジェダイの分析装置も同じことをしなければならないはずだ。
「父親はいなかった」
シミ・スカイウォーカーはアナキンに父親はいないと言い、クワイ=ガンは、少年はミディ=クロリアンによって宿されたのではないかと考える。『シスの復讐』では、パルパティーンが、ミディ=クロリアンに生命を生み出させることができたダース・プレイガスの話をする。以来、ファンはシスの関与を疑ってきた。だがLucasfilmのストーリー・グループの答えはノーだ。パルパティーンはアナキンの誕生に一切関わっていないという。[11]
単為生殖、いわゆる「処女懐胎」は現実に起こる。2006年、イギリスの動物園で飼育されていた2匹のコモドオオトカゲが、オスなしで孵化する卵を産んだ。サメやヘビ、鳥にも同じことができる。[12]だが哺乳類にはできない。父親から受け継いだときにしか働かない遺伝子があるからだ。それでも2022年、科学者たちはこうした「刷り込み」を受けた領域のうち7か所を書き換え、未受精卵1個からマウスを誕生させた。[13]
しかしミディ=クロリアンには、もっと難しい問題が待ち受けている。母親はX染色体を2本持っているので、母親の遺伝子だけでできた子どもはXとXを受け継ぐ。つまり女の子になる。アナキンは男の子なので、何かがY染色体を丸ごと1本、DNAにして約6200万文字分を書き上げなければならなかったことになる。[14]コモドオオトカゲはその逆だ。メスがZWなので、単為生殖では息子しか生まれない。
遺伝の謎
私たちはミトコンドリアを母親からしか受け継がない。卵子は10万〜60万個のミトコンドリアを持ち込むが、精子のわずかなミトコンドリアは無傷のDNAを持たずにやって来て、消えてしまう。[8][15]ミディ=クロリアンも同じように受け継がれるなら、ルークとレイアが持っているのはアナキンではなくパドメのミディ=クロリアンということになる。そしてアナキン自身のミディ=クロリアンは、彼の代で途絶えていたはずだ。
ところがサーガが描くのはその逆で、フォースは父親からも受け継がれる。現実の細胞が、ひとつの抜け道を示している。細胞がミトコンドリアをいくつ保つかは主に核の遺伝子で決まり、その遺伝子は両親から受け継がれる。共生体そのものは母親から来ても、その数は両親から受け継がれるのかもしれない。
- シミ由来のミトコンドリア
- パドメ由来のミトコンドリア
- 作中でフォースが強い人物
現実のミディ=クロリアン
Midichloria mitochondrii
ジョージ・ルーカスの許可を得て、ミディ=クロリアンにちなんで名づけられた実在の細菌。ヒツジマダニのミトコンドリアの中にすみ、母から子へと受け継がれる。[3]
Wolbachia
節足動物の40%以上の種で細胞の中にすみ、卵に入り込んで母から子へと伝わる。ある種の小さなハチでは、オスがまったくいなくても、メスが娘を産むようになる。まさに「共生体によって宿された」実例だ。[16]
Vibrio fischeri
ハワイミミイカの発光器にすむ光る細菌で、夜、捕食者からイカの影を消す。十分な数が集まったときにだけ発光するが、それを知る手段は、化学物質のシグナルを使った仲間同士の「会話」だ。[17]
ミトコンドリアと葉緑体
かつては細菌だったが、今ではあらゆる動物細胞とあらゆる緑の葉にエネルギーを供給している。これらがなければ複雑な生命は存在しえない。まさにクワイ=ガンがミディ=クロリアンについて語ったとおりだ。
ルーカスの次の構想:ウィルズ
2018年、ジェームズ・キャメロンとの対談でルーカスは、自身が手がけるはずだった続三部作では「微生物の世界」に踏み込むつもりだったと語っている。彼が「ウィルズ」と呼ぶ生き物が、フォースを糧に生き、実は宇宙を支配しているというのだ。ジェダイもシスも、そしてそれ以外の私たちも、ウィルズが移動するための乗り物にすぎず、その仲立ちをするのがミディ=クロリアンだという。多くのファンには嫌われただろう、とルーカス自身も認めている。[18]
判定:ミディ=クロリアンはどこまで科学的か?
- 細胞の中で生きる生命現実にあるミトコンドリア、Wolbachia、Midichloria
- 母から子へ受け継がれる共生体現実にあるミトコンドリア、Wolbachia
- 血液1滴で数を測る現実にあるPCRによるmtDNAコピー数の測定
- すべての細胞に2万個一部は現実ミトコンドリアよりはるかに小さい場合に限る
- 父親のいない男の子ありえないY染色体はどこかから来なければならない
- 会話する共生体一部は現実細菌は分子で信号を送り合う
- フォースの意志を伝える科学の外どんな装置でも確かめようがない
ミディ=クロリアンは、その評判から想像するよりずっと現実の生物学に近い。生命の中の生命、卵を通じて受け継がれる共生体、血液での計数。どれも実在する。科学が用意できないのは、フォースそのものだけだ。たぶん、それでいいのだろう。





